「帯同中に少しでも働きたい」「日本の仕事をリモートで続けてもいいの?」――シンガポールに帯同する配偶者(駐在妻・駐在夫)なら、一度は気になるテーマではないでしょうか。
この記事では、DP(帯同家族パス)保有者の就労ルールと選べる働き方を整理します。内容は、シンガポール人材開発省(MOM)の公式ページで確認できた範囲に絞っています。
この記事はこんな方に
- 💼働く側(駐在員ご本人)にとって配偶者が働く場合の、家族のパスや会社への影響を把握できる
- 🏡帯同する側(ご家族・パートナー)にとって帯同中に働くための条件と、選べる働き方がわかる
ざっくり言うと
- 🙅DPのままでは働けない
- 💼働くならEP(専門職の就労パス)・S Passなどを取得
- 🤝無報酬のボランティアなら就労パスは不要
まず押さえたい前提:DPは「滞在のためのパス」

Dependant’s Pass(DP)は、EPやS Pass(中技能の就労パス)を持つ人の配偶者・子どもがシンガポールに滞在するためのパスです。DPそのものに就労の許可は含まれていません。
MOMは、DP保有者が働く場合の選択肢として、次の3つを案内しています(MOM: Working in Singapore(DP))。
- 組織で働く:雇用主がEP・S Pass・DP-Work Permitを申請する
- 自分で事業を立ち上げる・運営する:Letter of Consent(LOC)を申請する
- ボランティアをする:条件を満たせば就労パス不要
Letter of Consent(LOC)はどう変わった?
以前は、DP保有者がLOC(就労の同意書)を取得して働く方法がありました。
MOMのファクトシートによると、2021年5月1日から、働きたいDP保有者はLOCではなく該当する就労パスが必要になりました(一部例外あり)。
当時すでにLOCで働いていた人は、そのLOCの有効期限まで働き続けられるとされていました。
出典: MOM: Factsheet on work arrangements of DP holders
現在もLOCが残っているのは「DP保有者で事業を営む人」向けです。詳しくは後半の「現地で起業する」で説明します。
自分に合う働き方の選び方
働き方を考えるときは、次の4点から整理すると迷いにくくなります。
- 誰のために働くか:シンガポールの会社・顧客か、日本など海外の会社・顧客か。MOMのFAQでは、ここで就労パスの要否が分かれます。
- 給与水準:EP・S Passには最低給与(qualifying salary)があります。DP-WPには最低給与の設定がありません。
- 家族の滞在との関係:EPやS Passを取ると、DPは取り消され、主たるパス保有者(帯同元の配偶者)に滞在を依存しなくなります。DP-WPは有効期間がDPに連動します。
- 日本側への影響:日本の税金・年金・健康保険(扶養)への影響は個別事情で変わります。勤務先の人事や専門家に早めに確認しましょう。
選択肢の比較表
MOMの公式ページに根拠がある働き方だけを並べています。金額はシンガポールドル(S$)、最終確認日時点の値です。
| 働き方 | 必要なもの | 申請者 | 給与・条件の目安 | DPとの関係 |
|---|---|---|---|---|
| 現地企業に就職(EP) | Employment Pass | 雇用主または雇用主が指定した人材紹介会社(EA) | 最低月S$5,600〜(年齢で上昇、45歳以上S$10,700。金融はS$6,200〜S$11,800)+COMPASS(点数制の審査)で40点以上(免除あり) | DPは取り消され、自分のEPで滞在 |
| 現地企業に就職(S Pass) | S Pass | 雇用主またはEA | 最低月S$3,300〜(年齢で上昇、45歳以上S$4,800。金融はS$3,800〜S$5,650)。雇用主にクォータ・レヴィあり | DPは取り消され、自分のS Passで滞在 |
| 現地企業に就職(DP-WP) | DP-Work Permit | 雇用主 | 最低給与の設定なし。雇用主にWork Permitのクォータ・レヴィあり | DPのまま。有効期間はDPに連動 |
| 現地で起業・事業運営 | Letter of Consent(事業主向け) | 本人(申請手数料は無料) | ACRA(会計企業規制庁)登録事業の個人事業主・パートナー・持株30%以上の取締役など。更新時は現地採用1名以上などの条件あり | DPのまま。DPが失効するとLOCも無効 |
| 日本など海外の組織・顧客の仕事 | MOMのFAQ上は就労パス不要 | — | シンガポールの組織・顧客向けの仕事は含まれない | DPのまま。税・社会保険は別途確認 |
| ボランティア | 就労パス不要 | — | 報酬なし・慈善目的であること | DPのまま |
出典:MOM: EP eligibility、MOM: S Pass eligibility、MOM: Working in Singapore(DP)、MOM: LOC eligibility、MOM FAQ
選択肢1:現地企業でEP・S Passを取って働く
シンガポールの会社に正社員などとして採用される場合、主な枠組みはEPとS Passです。どちらも本人ではなく、雇用主(またはEA)が申請します。
出典: MOM: EP key facts、MOM: S Pass key facts
EPの条件(2段階の審査)
MOMによると、EPは2段階で審査されます(MOM: EP eligibility)。
- ステージ1(最低給与):現在の最低給与は月S$5,600(23歳以下)からで、年齢とともに上がり、45歳以上はS$10,700。金融サービス業はS$6,200から、45歳以上S$11,800です。
- ステージ2(COMPASS):免除に当たらない限り、ポイント制のCOMPASSで40点以上が必要です。
ステージ1を満たさない場合は、COMPASSの点数に関係なくEPの対象外です。
また雇用主は、新規EP申請の前に、Fair Consideration Framework(FCF、公正な採用のためのルール)の求人広告要件を満たす必要があるとされています。
S Passの条件
S Passは中堅技能職(APT)向けのパスで、全国籍が対象です。現在の最低給与は月S$3,300(23歳以下)からで、45歳以上はS$4,800。
金融サービス業はS$3,800から、45歳以上S$5,650です(MOM: S Pass eligibility)。
2027年1月1日以降の新規申請(および2028年1月1日以降に満了する更新)からは、引き上げが予定されています。
引き上げ後はS$3,600(45歳以上S$5,100)、金融サービス業はS$4,000です(金融サービス業の45歳以上はS$5,650で据え置き)。
雇用主にはS Pass人数のクォータ(上限)とレヴィ(外国人雇用税)がかかります。医療保険の提供も求められます。
EP・S Passを取ると家族のパスはどうなる?
MOMは、EPまたはS Passを取得したDP保有者について次のように説明しています(MOM: Working in Singapore(DP))。
- EP・S Passの基準をそのまま満たす必要がある
- EP・S Passとしての就労・滞在の権利を得る
- 主たるパス保有者に滞在を依存しなくなる
- EP・S Passが発行される前に、DPを取り消す必要がある
「帯同元の配偶者が帰任しても自分のパスで残れる」一方で、自分が退職すればそのパスの扱いも変わります。家族の帰任時期や、子どもなど家族のパスへの影響も含めて、事前にMOMで確認し、家族で話し合っておくと安心です。
子どもの学校選びとも関係するので、日本人学校とインター校の選び方も参考にしてください。
雇用主の申請の流れ(EPの場合)
MOMのEP申請ページでは、流れは次のとおりです(MOM: Apply for an EP)。
- 雇用主(またはEA)がオンラインで申請。申請手数料はS$105。オンライン申請の場合、10営業日以内に審査結果か進捗の連絡があります。
- 承認後、雇用主(またはEA)がパスの発行手続き。発行手数料は1枚S$225(該当する場合、マルチプル・ジャーニー・ビザ1件S$30)。
- 必要に応じて本人が指紋・写真を登録し、デジタル就労パスを設定。
- カードは指紋・写真登録または書類確認から5営業日以内に届きます。
S Passも雇用主またはEAが申請します。申請手数料はS$105、発行手数料は1枚S$100です。
オンライン申請の場合、10営業日以内に審査結果か進捗の連絡があります。
採用前に、雇用主はMOMのSelf-Assessment Tool(SAT、事前診断ツール)を使えます。候補者がEP・S Passの対象になりそうかを確認できるツールです(MOM: Self-Assessment Tool)。
応募先の人事担当者に「SATで確認してもらえますか」と相談するのも一つの方法です。
選択肢2:DP-Work Permitで働く
DP-Work Permit(DP-WP)は、DP保有者のためのWork Permitです。MOMによると、DP-WPには次の特徴があります(MOM: Working in Singapore(DP))。
- 国籍を問わない
- 最低給与の設定がない
- 有効期間はDPに連動する
- 6か月ごとの健康診断と保証金(security bond)の要件がない
- MOMの最低補償要件を満たす医療保険にすでに加入していれば、雇用主が医療保険を用意する必要はない
- 雇用主にはWork Permitのクォータとレヴィがかかる
DP-WPのレヴィは業種ごとの最低水準にそろえられています。たとえばサービス業では、雇用主が外国人雇用の比率に応じて月S$300〜S$600を負担します。
なお2028年からは、サービス業と製造業のティア1・2が統合される予定です(サービス業はS$400、製造業はS$300)。実施時期の詳細は今後MOMが発表するとしています。
すでにDP-WPで働いていて転職する場合は、今の雇用主がWork Permitを取り消した後でないと、新しい雇用主は申請できません。
選択肢3:現地で起業する(事業主向けLOC)

シンガポールで自分の事業を立ち上げる・運営するDP保有者は、事業主向けのLetter of Consent(LOC)を申請できます。
出典: MOM: LOC for DP holders who are business owners
対象になる人
MOMによると、ACRA(会計企業規制庁)に登録された事業の、次のいずれかの事業主が対象です(MOM: LOC eligibility)。
- 個人事業主(sole proprietor)
- パートナー
- 30%以上の株式を持つ会社の取締役、または保証有限責任会社のメンバー
更新の条件と有効期間
LOCを更新するには、DPの残り期間が3か月以上あることが必要です。加えて、シンガポール人または永住者(PR)を1人以上雇用していることも必要です。
その従業員は、現行のLocal Qualifying Salary(LQS、地元従業員の給与基準)以上を受け取っている必要があります。また、申請日前の連続3か月以上CPF(中央積立基金)の拠出を受けている必要があります。
LQSの最新額はMOMで確認してください。
有効期間は、初回は「発行日から1年」と「DPの満了日」のうち短いほう、更新時はDPの満了日までです。DPが取り消し・失効した場合や事業の活動が止まった場合、LOCは無効になりますが、LOCの取り消し手続きは別途必要です。
申請の流れ
MOMの申請ページによると、流れは次のとおりです(MOM: Apply for an LOC)。
- DPの残り期間が3か月以上あるか確認(足りなければDPを先に更新)
- オンラインでLOC申請のリクエストを提出(結果は1週間以内)
- 承認されたら、myMOM PortalのEP eServiceまたはEA経由でLOCを申請。事業の売上情報を事前に更新しておく
手数料は無料で、処理期間はほとんどのケースで4週間以内とされています。事業を始められるのは、LOCを受け取ってからです。
選択肢4:在宅で日本の仕事を続ける・フリーランスで働く
「日本の会社の仕事をリモートで続けたい」「フリーランスで日本のクライアントの仕事を受けたい」という場合の考え方です。
MOMのFAQに書かれていること
MOMは、DPなどの滞在パスでシンガポールにいる人向けのFAQで次のように説明しています(MOM FAQ: self-employed or working for an overseas-based employer)。
- シンガポールにいて、シンガポールの組織(ACRA登録の事業体)や顧客のために働く・サービスを提供する場合は、就労パスが必要。これには利益を目的とするすべての活動が含まれる
- シンガポールにいて、海外の組織や顧客のために働く・サービスを提供する場合は、就労パスは不要
つまり、MOMのFAQの範囲では「誰のために働くか」が判断の分かれ目です。日本の会社・日本のクライアント向けのリモート業務は、このFAQ上は就労パス不要に当たります。
一方、シンガポールの会社やシンガポールの個人・企業向けにフリーランスで仕事をする場合は、就労パス(事業主ならLOC)が必要です。
クライアントに国内外が混ざる、シンガポール法人を通じて報酬を受け取るなど、判断が難しい場合はMOMに直接確認してください。
税金・日本の社会保険は別に考える
MOMのFAQが扱っているのは「就労パスが必要かどうか」だけです。税金や社会保険の扱いは、次のように別の論点になります。
- 日本の税金:日本の所得税では、国内に住所があるか、1年以上居所があるかで「居住者」「非居住者」を区分します(国税庁 No.2875)。どちらに当たるか、日本の会社からの報酬にどう課税されるかは個別事情で変わります。
- シンガポールの税金:シンガポールでの課税の考え方はシンガポール駐在員の税金入門で整理しています。自分の報酬がどう扱われるかは、IRAS(内国歳入庁)や税理士に確認してください。
- 日本の年金・健康保険:日本の会社に雇用されたまま働くのか、業務委託なのか、帯同元の配偶者の扶養に入っているのかで扱いが変わる可能性があります。帯同元の勤務先の人事・健康保険組合、日本年金機構などに確認しましょう。
この分野は、一般論で判断すると後から修正が必要になることがあります。働き始める前に、税理士・社会保険労務士など専門家に相談するのがおすすめです。
選択肢5:ボランティアとして活動する
MOMによると、次の条件を両方満たすボランティア活動には就労パスが不要です(MOM: Working in Singapore(DP))。
- 報酬が発生しない
- 慈善目的の活動である
日本人会や学校のPTA、地域の活動などに関わる場合も、謝礼や報酬が出るかどうか、活動の目的は何かを確認しておきましょう。判断に迷うときはMOMに確認するのが確実です。
パートタイム・掛け持ちはできる?
MOMのDP向けページには、パートタイム勤務だけを対象にした特別な枠は記載されていません。
パートタイムでも、シンガポールの雇用主のもとで働くなら、EP・S Pass・DP-WPのいずれかが必要になると考えられます。個別のケースはMOMに確認してください。
なお、MOMのFAQでは、就労パス保有者は指定された雇用主のためだけに働くこととされています。追加の仕事や、シンガポールで追加収入を得る活動をしてはならないともされています(MOM FAQ: multiple jobs)。
「平日はA社、週末はB社」のような掛け持ちは、この点に注意が必要です。
日本人家族が準備しておきたいこと

- 赴任前に方針を決める:日本の会社を休職するのか、退職するのか、リモートで続けるのかで、日本側の手続きが変わります。シンガポール赴任準備チェックリストとあわせて、会社の人事に早めに相談しましょう。
- 帯同元の会社の規程を確認:会社によっては、帯同家族の就労について社内ルールがある場合があります。帯同元の配偶者の会社にも確認しておくと安心です。
- 家族全員のパスの期限を管理する:DP-WPや事業主向けLOCはDPに連動します。帯同元のEPの更新や帰任時期も含めて、家族のパスの期限を一覧にしておきましょう。
- 子育てとの両立:働く場合は、送迎や長期休暇中の預け先も考える必要があります。ヘルパーを雇う方法や2027年の祝日・学校休暇カレンダーも参考にしてください。
よくある質問
DPのまま、シンガポールの会社でアルバイトできますか?
DPだけでは働けません。シンガポールの雇用主のもとで働くには、雇用主がEP・S Pass・DP-WPのいずれかを申請する必要があります。
DPのまま働けるのは、雇用主がDP-WPを申請した場合です(MOM)。
以前はLOCで働けたと聞きましたが、今は?
2021年5月1日から、働きたいDP保有者は原則としてLOCではなく就労パスが必要になりました(MOM)。現在LOCを申請できるのは、ACRA登録事業の事業主など条件を満たすDP保有者です。
日本の会社の仕事をシンガポールからリモートでしても大丈夫?
MOMのFAQでは、シンガポールにいて海外の組織・顧客のために働く場合は就労パス不要とされています(MOM FAQ)。ただし、日本・シンガポールの税金や日本の社会保険の扱いは別の問題なので、専門家に確認してください。
EPを取ると、夫(妻)が帰任しても残れますか?
MOMによると、EPやS Passを取得したDP保有者は、主たるパス保有者に滞在を依存しなくなります。EP・S Passの発行前にDPは取り消されます(MOM)。
子どものパスの扱いなど家族全体への影響は、事前にMOMで確認しましょう。
有給でなければ、学校や地域のお手伝いは自由にできますか?
報酬が発生せず、慈善目的の活動であれば、就労パスは不要とされています(MOM)。謝礼が出る、営利目的の活動が含まれるなど判断が難しい場合は、MOMに確認してください。
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最終確認日: 2026-10-02


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