この記事はこんな方に
- 💼働く側(駐在員ご本人)にとって日本の証券口座や積立を、出国前にどう整理するかがわかる
- 🏡帯同する側(ご家族・パートナー)にとって自分名義の口座や積立が駐在中にどうなるかを確認できる
ざっくり言うと
- 🏦日本の証券口座は出国で取引が制限されることも
- 📈NISAは条件つきで継続できる
- 👵iDeCoは任意加入で続けられる
全体像:日本の口座は「守る」、シンガポールでは「新しく始める」

駐在中の資産運用は、日本の口座とシンガポールの口座で考え方が分かれます。
日本の口座は、出国すると新しい買付けなどが制限されることがあります。「今ある資産をどう持ち続けるか」を出国前に決める場面です。
一方、シンガポールで新しく積み立てたい場合は、現地の銀行や証券会社を使うことになります。
| 口座・制度 | 駐在中にできること | できないこと・注意点 |
|---|---|---|
| 日本のNISA | 継続適用届出書を出せば、最長5年は非課税のまま保有 | 出国中の買付けは不可。対応の有無・残せる商品は金融機関ごとに違う |
| 日本の証券口座(特定口座など) | 金融機関によっては口座を残して保有を続けられる | 出国の手続きが必要。取引できる範囲は各社で大きく違い、売却を含めて制限される例もある |
| iDeCo | 国民年金に任意加入すれば掛金を払い続けられる | 任意加入しないと加入者の資格を失い、運用指図者として運用のみ |
| シンガポールの預金 | SGD(シンガポールドル)預金はSDIC(預金保険機構)でS$10万まで保護 | 外貨預金・仕組預金・投資商品は保護の対象外 |
| シンガポール貯蓄国債(SSB) | 外国人も購入可。S$500から。満期前でも毎月、ペナルティなしで換金を申し込める | 保有上限S$20万。CDPの証券口座などが必要 |
| SRS(補足退職制度) | 外国人は年S$35,700まで拠出し、その分が所得控除 | 法定退職年齢前の引き出しは全額課税+5%のペナルティ(外国人の特例あり) |
| CPF(中央積立基金) | — | 外国人の駐在員は対象外(CPFでの積立はできない) |
日本側:出国前に決めておくこと
NISA:継続適用届出書で最長5年、ただし買付けは止まる
国税庁の説明では、会社の転任の命令など「やむを得ない事由」で一時的に出国する人が対象です。
出国の日の前日までにNISA口座のある金融機関へ「継続適用届出書」を出すと、出国後も非課税のまま保有を続けられます。
非課税が続くのは、帰国後に「帰国届出書」を出す日と、継続適用届出書を出した日から5年を経過する日の属する年の12月31日の、どちらか早い日までです。
期限までに帰国届出書を出さないと、「非課税口座廃止届出書」を提出したものとみなされます。その場合、NISA口座は廃止されます。
出国中は、NISA口座で新しく買うことはできません(日本証券業協会のQ&A)。帰国して帰国届出書を出せば、また買付けができるようになります。
継続適用の手続きをせずに「出国届出書」でNISA口座を廃止した場合も、帰国後に改めて口座を開設できます。
注意したいのは、この制度に対応するかどうかが金融機関ごとに違うことです。金融庁も「取扱いの有無等については、金融機関によって異なります」と案内しています。
たとえばみずほ証券は、継続適用届出書を出せば出国後も最長5年、NISA口座の上場株式等や株式投資信託を非課税で保有できると案内しています。
マネックス証券は、海外転勤による出国と、それに帯同する配偶者に限ってNISA口座を継続できるとしています。
ただし同社は、出国中は出金以外のすべての取引が制限され、原則として売却もできないと案内しています。
赴任が決まったら、まず自分の証券会社の「出国」「海外転勤」のページを確認しましょう。
特定口座・一般口座:「残せるか」「売れるか」を確認
楽天証券は、日本国外での金融商品取引業の許可を持っていません。そのため、非居住者になった顧客との取引は出国先の国の法令に抵触する可能性がある、と説明しています。
前述のマネックス証券のように、出国中は売却も含めて取引が制限される例もあります。
次の点は各社で異なります。
- 口座を残せるか
- どの商品を持ち続けられるか
- 売却や出金ができるか
出国前に確認しておきたいのは、次の4点です。
- 出国の届け出が必要か、期限はいつか
- 出国中も保有を続けられる商品と、売却が必要な商品(信用取引・FXなど)
- 出国中に売却・出金ができるか
- 帰国後に取引を再開する手続きと、かかる日数
iDeCo:国民年金に任意加入するかで分かれる
iDeCo公式サイトによると、2022年5月1日の制度改正で、国民年金に任意加入している海外居住者もiDeCoに加入できるようになりました。
海外に住む日本人は国民年金の加入義務がなくなりますが、任意加入を選ぶことができます(日本年金機構)。
任意加入してiDeCoを続けるには、運営管理機関での手続きが必要です。
任意加入しない場合は、iDeCoの加入者の資格を失い、掛金は払えなくなります。その後は「運用指図者」として、これまでの資産の運用だけを続けることになります。
金融資産が1億円以上なら「国外転出時課税」も
「国外転出時課税制度」は、出国時に含み益に課税される制度です(国税庁)。
株式などの対象資産が合計1億円以上あり、出国前の10年以内に日本に住んでいた期間が5年を超える人は、対象になることがあります。
詳しくは駐在員の税金入門で整理しています。
シンガポール側:駐在中に始められること

前提:個人の投資の利益は、多くが非課税
IRAS(シンガポール内国歳入庁)の説明では、個人の場合、次のものは一般に課税されません。
- 株式やその他の金融商品の売買で出た利益(個人の投資とみなされるもの。一方、不動産を利益目的で売買している、または不動産取引を業として行っているとみなされる場合は課税されることがある)
- シンガポール居住法人がワンティア制度のもとで支払う配当(協同組合の配当を除く)
- 居住者の個人がシンガポールで受け取る外国の配当(シンガポールのパートナーシップ経由を除く)
- シンガポールの認可銀行などへの預金利息
- シンガポールで受け取る海外の所得(パートナーシップ経由などの例外を除く)
ただし、これはシンガポールの税金の話です。日本の不動産収入のように日本で課税される所得は別ですし、帰国して日本の居住者に戻れば、日本の税金のルールで課税されます。
預金:SDICの保護はS$10万まで、SGD預金のみ
シンガポールの銀行預金は、SDIC(シンガポール預金保険公社)の制度で保護されます。保護されるのは、預金者1人・加盟銀行1行あたりS$100,000までです。
対象はシンガポールドルの預金です。次のものは保護の対象外です。
- 外貨預金
- 仕組預金
- 投資信託・株式などの投資商品
円やUSD(米ドル)で預けている分は保護されない点に注意しましょう。
シンガポール貯蓄国債(SSB):外国人も買える
シンガポール貯蓄国債(Singapore Savings Bonds)は、18歳以上の個人が購入できます。MAS(金融管理局)のFAQでは外国人も購入できるとしています。
S$500から買え、1人あたりの保有上限はS$200,000です。
満期前でも、どの月でもペナルティなしで換金できます。代金は翌月の2営業日目の終わりまでに戻ります。
現金で買う場合は、CDP(シンガポール中央預託機関)の証券口座などが必要です。
SRS:所得控除は大きいが、「引き出し方」が肝心
SRS(Supplementary Retirement Scheme、補足退職制度)は、老後資金のための任意の積立制度です。外国人も口座を開けます。
口座は3つの銀行(運営銀行)のいずれか1つだけで持てます。
年間の拠出上限は、外国人がS$35,700(シンガポール国民・永住者はS$15,300)です。拠出した額は所得控除になります(所得控除の合計には年S$80,000の上限あり)。
一方、引き出すときの扱いが重要です。
IRASの説明では、法定退職年齢(2026年7月1日から64歳。最初に拠出した時点で適用されていた法定退職年齢が基準)以降の引き出しは50%だけが課税され、ペナルティもかかりません。
それより前に引き出すと、全額が課税されたうえで5%のペナルティがかかります。
外国人には特例があります。最初の拠出から10年以上口座を維持し、引き出し日までの10年間継続してシンガポール国民・永住者でない場合が対象です。
この場合、全額を一括で引き出すと50%だけが課税され、ペナルティもかかりません。
また、外国人や永住者の引き出しには源泉徴収がかかります。
3年前後で帰任する予定の駐在員の場合、帰任時に引き出すと、拠出したときに減った税金よりも引き出すときの税金とペナルティのほうが重くなることがあります。
拠出する前に、「いつ、どの条件で引き出すか」を運営銀行とIRASの案内で確認しておきましょう。
CPFは外国人の駐在員には関係ない
シンガポールの公的な積立制度CPFは、シンガポール国民と永住者だけが対象です。
CPF庁は、外国人の従業員はシンガポールで退職するとは限らないため拠出の対象外だと説明しています。老後資金を積み立てたい外国人にはSRSを案内しています。
駐在員の老後資金は、日本の年金と自分での積立で考えることになります。
現地の証券口座で外国株:米国株の配当に注意
シンガポールの証券会社では、シンガポール株のほか、米国株なども取引できるところがあります。ここで知っておきたいのが米国の源泉税です。
IRS(米国内国歳入庁)によると、外国人が受け取る米国源泉の所得(配当など)には原則30%の米国の税金がかかります。居住する国と米国の租税条約があれば軽減されることがあります。
IRSの租税条約一覧に日本は含まれていますが、シンガポールは含まれていません。
シンガポールの居住者として取引する場合の税率は、口座を開く証券会社に確認しましょう。
気をつけたいこと:勧誘の相手が「本物」かを確かめる
駐在していると、保険や投資商品の勧誘を受けることもあります。
MAS(シンガポール金融管理局)は、MASの免許・認可を受けていると誤認されるおそれのある業者などを「Investor Alert List」で公表しています。
なお、MASは実在する金融機関になりすます業者の名称などは今後このリストに掲載しないとしています。そのうえで、相手の身元を確かめて公式の窓口だけを通すことを呼びかけています。
迷ったら相手の公式サイトやMASのFinancial Institutions Directoryで正式な連絡先を確認することも呼びかけています。
「日本人向け」「高利回り」をうたう話ほど、まず相手の免許を確かめましょう。
駐在期間別の考え方の例

最後に、よくあるケースごとに、整理の順番の例を挙げておきます。どれも一般論なので、実際の判断は家族の状況に合わせてください。
- 3年前後で帰任予定の場合:日本のNISAは、証券会社が対応していれば継続適用届出書で保有を続け、帰国後に買付けを再開する。シンガポールでは、帰任時にそのまま日本へ持ち帰りやすいもの(預金・換金しやすい国債など)を中心に考え、SRSは引き出しの条件を確かめてから判断する。
- 5年を超えそう・現地採用に切り替える可能性がある場合:NISAの継続適用は最長5年(継続適用届出書を出した日から5年を経過する日の属する年の12月31日まで)で、それまでに帰国届出書を出さないと口座は廃止される。日本の口座で持ち続けるか、現地の口座で運用するかを、帰国の見込みと合わせて考える。
- 教育費など使う時期が決まっているお金:子どもの進学など数年以内に使うお金は、値動きのある商品よりも、預金や国債など元本が大きく動かないものに置いておくという考え方もあります。
よくある質問
出国前に何もしないとNISAはどうなりますか?
国税庁の説明では、継続適用届出書は出国の日の前日までに出す必要があります。
手続きの期限や、何もしなかった場合の扱いは金融機関によって違います。出国日が決まったらすぐに口座のある金融機関に確認してください。
金融機関が継続適用に対応していない場合は、出国届出書を出してNISA口座を廃止することになります。帰国後に改めて開設できます。
家族(配偶者)のNISAも続けられますか?
国税庁の説明では、継続適用の対象は「転任の命令その他これに準ずるやむを得ない事由により一時的に出国をする者」です。帯同する配偶者を対象とする金融機関もあります(例:マネックス証券)。
配偶者の口座の金融機関にも個別に確認しましょう。
駐在中、日本の証券口座で新しく投資信託を買えますか?
NISA口座では出国中の買付けはできません。特定口座などでも、非居住者の取引が大きく制限される金融機関があります(例:マネックス証券、楽天証券の案内)。
駐在中に新しく積み立てたい場合は、シンガポールの金融機関を使う方法があります。
シンガポールで投資した利益は、帰国後に日本で課税されますか?
シンガポールでは、個人の株式の売買益や、居住者の個人がシンガポールで受け取る外国の配当は一般に非課税です。一方、帰国して日本の居住者に戻った後に売却したり配当を受け取ったりすれば、日本の税金のルールで課税されます。
いつ売るかで課税の国が変わることがあるので、帰任の前に税理士に相談しておくと安心です。
SRSは駐在員に向いていますか?
拠出額が所得控除になるので、シンガポールで所得税を多く払っている人ほど税金は減ります。
ただし、法定退職年齢前に引き出すと全額課税+5%のペナルティがかかります。外国人の特例は、最初の拠出から10年以上口座を維持していることなどが条件です。
帰任の時期と引き出し方を決めてから検討しましょう。
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最終確認日: 2026-10-02


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